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文化

顔を上に向け思いきり叫び

(1400字)
 ものすごい人で廊下が埋まっている。祭りの日か満員電車さながらの混雑具合。
 人波をかき分けながら途中どこかの教室を通り過ぎる時、あまりの暑さからか上着を脱いだらしく、白いランニングシャツ一枚の全身汗だくになった先生が廊下に佇んでいるのが見えた。声を掛けたかったが、近くに人だかりが出来てそんな雰囲気では到底無いのだった。
 少しすると先生は一旦しゃがみ込み、奥にいる生徒と息を合わせ担架を持ち上げようとしていた。
 異様な人の数による熱気と、皆で押し合いへし合いをしている状態だったのでそのせいで具合が悪くなったのかもしれないと思いながら、背中にやり取りを見つつ後にする。

 次第と焦りが出てくる。小走りになりながら左右を忙しく見渡し、相談して意味のありそうな人物を探すもなかなかに相応しかろう相手は見つからない。角を曲がる時も速度を落とさずに走りぬけ、自分の体が車のドリフト走行の状態になっていることに気がつくのだった。
 もうダメかもしれないと沸き起こってくる気持ちを抑えつつ、どうしても諦めきれずに直進する。
 少し進むと廊下の左側に改修中のトイレか教室のような空間があり、入口付近にがれきが三十センチくらいの高さに積まれていた。その上に若い作業員二人が腰を下ろし、どっかりと座り込み何かを話していた。この先には多分探している人物はいないだろう。段々と人もまばらになってきていたのだ。ただどうしても、進んで来た道を戻ることは出来ない。

 周囲をいま一度見回すが、ほとんど人の気配がない。こりゃいよいよ間に合わないと泣きたくなるような、でなければ辺り構わず大声を発しでもしたくなる感情に飲み込まれそうになり、真っ直ぐな道をヤケクソ気味に全力で走る。
 試験の際に受験票の類が必要だという元々の決まりがあるのなら、それを自分が知らないはずがないのだ。おそらくこちらが知らないうちに訳の分からない制度を勝手に、あるいはわざと誰かを騙すために作り出したに違いない安利
 そういった理不尽さに対しての怒りと、かなり重要であろう、多分義務付けられているはずの試験を受けることが出来ない現実への、極度に落胆する気分が混じりあい絶頂に達した。走りながら「ゥウオオォォーーー」

 顔を上に向け思いきり叫び、その叫びは声が嗄れることが無く、さらに声が続いている間は時間の経過とともに走る速度が加速していくようだ。衝動のままに全力で、地平まで突き当たりの見えない廊下を駆け抜けた安利
 足元には細かな石の欠片が無数に散らばり、部分的にまたは半分以上のコンクリートが砕かれひしゃげた鉄筋がむき出しになった壁が左右を囲んでいた。私の叫び声を笑いながら真似をする、先ほどの作業員の声が後ろから壁を反響して伝わってくる。 

夢を振り返って:白いランニングシャツを着た先生だが、TV番組の再現VTR専門で頻繁に顔を見せる、固太りで頭髪はかなり薄く眉は太く目はギョロとしているあの人物だ
大体演じられる人物像は頑固者で怒りっぽく、しかしそれでいて意外に子煩悩だったり部下思いなところもあり、素直にはなれないが奥さんを愛しているといった感じの役柄が多い
時代に取り残された生きづらさに苦心しながらもなんとか踏ん張ってみようとしている、最後の昭和の親父という設定だろうか。それを彼は上手くこなす安利

付け加えるなら、必ずと言っていいほど脳か循環器系の血管などの異状により倒れ重体になる、みたいなシチュエーションを演じている。名前は思い出せないがあの人だ
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